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マリインスキー劇場 『シュラレ』 2010年2月21日
2010年2月21日
三幕四場
作曲:F・ヤルーリン 脚本:A・ファイジ、L・ヤコブソン(タタールの民話に題材をとって)
1950年の作品再演 振付:L・ヤコブソン
シュインビケ、鳥もしくは女の子:M・ドゥムチェンコ
アリ-バティール、狩人:I・シトニコフ
シュラレ、悪い森の精:A・セルゲーエフ
タタールの美しい民族衣装、風景が目に鮮やかな、色彩あふれる舞台です。曲にも民族音楽の要素がふんだんに取り入れられています。お話は、簡単に言うと白鳥の湖と天の羽衣を足した感じです。シュインビケに恋する森の精シュラレは、彼女が白鳥の姿になって飛び立っていかないように彼女の羽を隠してしまいます。シュラレから逃げようとするシュインビケを助けてくれるのが村の若者アリ-バティール。彼はすぐに娘の美しさの虜になり、彼女と結婚式を挙げます。そこへやってきたシュラレは彼女に羽を与えて村を捨てるように仕向けます。また空の世界に戻れると思うのもつかの間、彼女はシュラレがよこしたカラスの群れにさらわれてしまいます。アリ-バティールは森に火をつけてシュラレをあぶりだし、戦いの末、シュインビケと再開を果たします。燃え盛る炎の中、若者は愛する人に羽をつけて空へ逃げるように促します。自分の命もかえりみずに助けに来てくれた彼に感動した娘は一緒に生きる道を選びます。村のにぎやかな宴で幕が閉じられます。
一場と三場は薄暗い森の中。火の魔女たちや、ユーモラスな格好をしたいろいろな悪魔が登場します。高さ三メートルに及ぶかと思われる巨大な悪魔もいれば、ひしゃげた顔の大きなお面とマントをかぶった小さい子供たちの悪魔もいます。きのこが踊っているようでほほえましい一場面でした。
全体に暗い色調の森の場面とはうってかわって、はっとするほどの鮮やかさを見せるのが二場と四場、村の場面です。柔らかくも美しい黄金色をした紅葉、ところどころ赤色の模様で飾られたロシアの伝統的な木造の家が自然に溶け込むよう。これらを背景に登場する人々の民族衣装のなんと色彩豊かなこと。まさに色の洪水です。女性は足首あたりまであるスカートに、きらびやかな刺繍がほどこされている裾の長い外套のようなものをウエストのところできゅっとしめています。男性はゆったりとした外套にズボン。同じ模様の人は一人もいません。
タタールの民族性を色濃く反映しているのは音楽、舞台装置、衣裳だけではありません。踊りにも民族舞踊の動きが利用されています。手をしなやかに手首のところでそりかえらせる仕草や、小気味よく頭を左右に揺らせる動作など、農民の踊りのときはさることながら、シュインビケとその友達が鳥の姿のときの踊りにも使われています。そのときはなんとなく首振り人形を想起させるような、かわいらしくもユーモラスな雰囲気です。
この日の出演者の面々は最上の組み合わせとは言い難かったようです。ドゥムチェンコはベテランのバレリーナですが、技術的に危なっかしく、全体に体力も足りていないのではないかと…。シトニコフはすべてのポーズをなんとなく流してしまうようなところもありました。
あまりふるわなかった主役たちをよそに、その存在感をつよく印象付けたのがセルゲーエフのシュラレです。メリハリの利いた演技で人を引き付け、柔軟性に富んだ身体は人間離れして、こぶだらけの曲がりくねった太い木の幹を思い出させました。結婚式の酔客たちをからっかったりするおちゃめな一面ももったシュラレですが、セルゲーエフはそんなときも徹頭徹尾「悪者」。シュインビケのことも恋してるというよりは、悪だくみのうちのひとつという感じもあり。もともと民話の中のシュラレは悪いけどとぼけているとか、いろいろな性格を持っていて、ひとくくりにできないようです。だからダンサーにもさまざまな演じ方が可能になるのだそうです。
去年夏の初演から今まで、シュラレはいつも満員の観客席に迎えられました。ひとつはマリインスキーの中の数少ない子供向け(子供にも喜ばれる)バレエだということ、またもうひとつはなによりもよくできた作品だということだと思います。終演後にはシュラレのまねをする子どもたちが劇場のあちらこちらに見られました。
サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記
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