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マリインスキー劇場 『ジゼル』 2009年11月19日
2009年11月19日
作曲:A・アダン リブレット:J・サン=ジョルジュ、T・ゴーチエ、J・コラッリ
振付:J・コラッリ、J・ペロー、M・プティパ
指揮:M・シンケーヴィチ
ジゼル:E・オブラスツォーワ
アルブレヒト:L・サラファーノフ
ハンス(ヒラリオン):Y・スメカーロフ
ミルタ:T・トカチェンコ
モンナ(ウィリ): Y・カセンコワ ジュリマ(ウィリ):E・エフセーエワ
パ・ドゥ・ドゥ(一幕):E・エフセーエワ、R・ボボブニコフ
本当によくできたバレエで何回見ても飽きることがないなぁと再確認でした。短い(休憩入れて二時間十分)ながらドラマチズムがぎゅっと凝縮されていて、無駄な部分もなく、さすが160年の歴史を生き残っただけあるなと今更思いました。
以前にも書きましたが、最近大人の表情を見せるようになったオブラスツォーワ。明るい笑顔もチャーミングですが、今回は特に二幕で本領発揮してくれました。オブラスツォーワのジゼル-ウィリは、人間的な感情が希薄な透明な精霊で、アルブレヒトを許したりしません。彼を助けるのも、人間的に愛しているからというよりも、より崇高な博愛の念に動かされてといったほうが合っているかもしれません。一幕のかわいらしい少女から、二幕の精霊への変身が見事でした。
サラファーノフはトリックのような跳躍の連続で今回も観客を熱狂させました。ソロ部分の振付をより効果的に見せられるように何箇所か作り変えて踊っていたようなのですが、頂点は二幕のヴァリエーションにありました。
バレエ・ファンの方は覚えてらっしゃると思うのですが、二回目に跳躍しながら上手奥から下手前に移動する部分で、スタンダードは空中で両足を合わせて二回転して下りてきます。そこをサラファーノフは片足を曲げて(パッセ)空中二回転したあと片足で着地、上がっているほうの足をグラン・ロンド(半円を描く)、しかもオフ・バランスで、そのまま次のジャンプへ続くという離れ業をやってのけてくれました。別のヴァリエーション最後は人間とも思われない非常に高い位置でアントルシャ・ユイット(空中で足を交差する)を幅は狭いながらも正確な足さばきでこなし、拍手の嵐を呼びました。
サラファーノフは踊りで感情表現をしようという方向性を持ち始めたようですが、よくしなる体やオフ・バランスはいささか古典バレエとは相いれないような気もしました。
主役二人ともそれぞれに素晴らしかったですが、古典に忠実なオブラスツォーワと、なんとなくモダンに近いような動きを見せたサラファーノフとでは二つの別々のバレエを見ているような気がしないでもなかったです。
ハンス役のスメカーロフは均整のとれた長身が災い(?)してサラファーノフのアルブレヒトよりもよっぽど高貴な雰囲気をかもしだしていました。
トカチェンコは技術もあるし感情表現もできる素晴らしいダンサーですが、体つきがしっかりしているのが見劣りの原因になり残念です。
一幕のパ・ドゥ・ドゥに二幕のジュリマと大活躍のエフセーエワ。あんなに完璧なパ・ドゥ・ドゥの女性ソリストは久しぶりに見ました。全体に技術的に難しい踊りですが、特に注目が、女性が二回転ピルエットのあと、つま先立ちから下りないまま、すぐわきにいる男性の腕に片手でつかまって、そのまま上がっている足をロンド(半回転)させてうしろまでもっていくところです。だいたいのソリストが立ちきれないでピルエットの最後に一回プリエに降りてからロンドに移りますが、エフセーエワはあぶなげなくやってのけ、さすがという感じでした。
おなじみの古典バレエながら、興奮した観客の拍手がいつまでも鳴りやむことなく続きました。
サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記
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