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3/22 世界のバレエ・スターたちによるガラ・コンサート 第9回マリインスキー国際バレエ・フェスティバル マリインスキー劇場

2009年3月22日

指揮:アレクサンドル・ノヴィコフ(第一部)、ミハイル・アグレスト(第二、三部)

第一部 フー・ケアーズ?
音楽:ジョージ・ガーシュイン オーケストレーション:ハーシー・ケイ 振り付け:ジョージ・バランシン 
照明デザイナー:イーゴリ・ヤクシェフ
出演:イーゴリ・ゼレンスキー、アンナ・ジャーロヴァ、ナタリア・エルショーワ、エレーナ・ルィトキナ 
    他 ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場ダンサー

 ダンサーたちが楽しんで踊っているのがよくわかりました。明るく快活でフレッシュな印象です。幕開けにもってこいのテンポのいい音楽と踊りで客席を沸かせました。最初に舞台に登場した瞬間のゼレンスキーがとてもかっこよかったです。パートナーの女性をたてながらも自分も誇り高く気品のあるたたずまい。そのあとのアダジオは、振り付けからいうと若いふたりの間に淡い恋の感情が生まれる・・・といった感じのはずなんですが、この日の二人はかなり大人な愛を演じていました。もう長年付き合っているような。他のソリスト二人も大健闘でした。全体として、時々技術的に心もとない瞬間がないわけではないですが、溌剌とした気持ちのいい舞台でした。


第二部 ディベルティスメント
①バレエ「マノン」よりアダジオ
音楽:ジュール・マスネー 振り付け:ケネス・マクミラン
出演:ヴィクトリヤ・テリョーシキナ、マルセロ・ゴメス(アメリカン・バレエ・シアター)

二人の感情表現の温度差が激しかったです。マルセロ・ゴメスは全身でアタックするような情熱的なデ・グリューなのに、一方のテリョーシキナは冷たい態度。彼女を支えて移動するさまが、人形を引きずっているようにしか見えないこともありました。

②バレエ「パリの炎」よりパ・ドゥ・ドゥ
音楽:ボリス・アサーフィエフ 振り付け:ワシリー・ワイノーネン
出演:イリーナ・ゴルプ、ミハイル・ロブーヒン

最近ソロのパートによく名前が出るようになったゴルプはういういしさ満点で愛らしかったです。ただ、特に技術が高いわけではないのでもっと別のものを踊らせたほうが良かったのではないかという気もします。本来、このパ・ドゥ・ドゥは、技術的にドン・キホーテと同じくらい巧妙さとはつらつさ、歯切れのよさが求められます。ゴルプはこの役には少し甘い感じがしました。ロブーヒンは高い跳躍でお客を驚かせていましたが、役を演じるうえで、相手とうまくバランスがとれなかったせいか、なんとなしにさえない印象でした。

③Impromptu
音楽:フランツ・シューベルト 振り付け:デレク・ディーン
出演:アグネス・オークス、トーマス・エデュール(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
ピアノ演奏:リディヤ・ズヴェリョワ
 
秀作です。個人的にはこの日、一番気に入った作品でした。音楽からあふれて流れ出てきたようなよどみない振り付け。演じる二人もこの音楽と振り付けから香る詩情をよく理解し、感じているのがわかりました。全体を通して、男性は女性を支える役にまわり、言ってみれば主役は女性なのですが、二人の息が技術的な意味でぴったりで、さらには演じるという点で、同じ世界観を共有しているのがありありとみて取れます。奇跡的なペアだと思いました。

④ル・パルク
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 振り付け:アンジェラン・プレルジョカージュ
出演:ディアナ・ヴィシニョーワ、ウラジーミル・マラーホフ(ベルリン国立バレエ団)
ピアノ演奏:リュドミラ・スヴェーシニコワ

理想的なペアですね。夜の寝室の場面でしたが、なまなましくなりすぎず、でも熱い感情がたぎっていて、すばらしかったです。全幕で観たくなりました。

⑤タランテラ
音楽:ルイ・モロー・ゴットシャルク 振り付け:ジョージ・バランシン
出演:ナジェジダ・ゴンチャル、レオニード・サラファーノフ
ピアノ演奏:リュドミラ・スヴェーシニコワ

 二人とも能力の高いダンサーですが、ミスキャストではないかと…。ゴンチャルはもっと柔らかい踊りに向いているし、サラファーノフの跳躍は空中を飛行するような息の長い性質のものです。バランシンのタランテラはそれらとはまったく反対の種類で、疾風が吹き廻るような情熱的な、ほとんど猛烈な踊りでなければなりません。最初に振り付けられたダンサーたちは、信じがたいほどの速さで軽妙なウィットに富んだ動きを次々と繰り出しました。サラファーノフとゴンチャルの下ではオーケストラもかなりゆっくり演奏し、振り付けの妙が失われていました。

⑥瀕死の白鳥
音楽:カミーユ・サン=サーンス 振り付け:ミハイル・フォーキン
出演:イルマ・ニオラーゼ

 難しい作品だということを改めて感じました。本当に人によって解釈がいろいろありますね。個人的には、白鳥ではあるのだけれど、動物にはなりさがらない、ほとんど精霊的な透き通った存在感の「瀕死の白鳥」が好きなので、ニオラーゼの実際の白鳥を見るような踊りはあまり好きになれませんでした。

⑦グラン・パ・ドゥ・ドゥ
音楽:ジョアキーノ・ロッシーニ 振り付け:クリスティアン・シュプック
出演:ウリヤナ・ロパートキナ、イーゴリ・コルプ

 会場全体を笑いの渦に巻き込みました。クラシックなコスチュームに身を包み、まじめに二人で出てきたかと思いきや、ロパートキナの手にはなぜかバラ色のハンドバッグ、顔には黒縁めがね。クラシックバレエの楽しいパロディーです。しじゅうハンドバッグを気にする女と、それを制止しながらデュエットを続けようとやっきになる男。女の足をつかんで床をひきずったり(それでも女はポーズをとり続ける)、フェッテをお客さんに背中向けて終了したりと、観客のほうは笑いっぱなしです。ロパートキナがまたそれを心底うれしそうに演じているのがとてもチャーミングでした。

⑧バレエ「ドン・キホーテ」からパ・ドゥ・ドゥ
音楽:リュドビグ・ミンクス 振り付け:アレクサンドル・ゴールスキー
出演:エフゲニヤ・オブラスツォーワ、アンヘル・コレーラ
 
 アンヘル・コレーラはいつもどおりあちらこちらのポーズをしっかりアピールしてお客さんに愛嬌を振りまいていました。ただ、マリインスキーの傾斜した床に合わせて調整しきれていなかったせいか、回転の軸は見事に斜めに倒れ、それでもなんとか持ちこたえていたのですが、最後のピルエットでは完全にずれて両足をついてしまいました。それでも笑顔満点で、「さすが陽気なお兄ちゃん!そうこなくっちゃ!」となんだか好感を抱かせてしまうのは、彼個人の人間の魅力がなせる技でしょうか。普段はお客を興奮させるほど技術も完璧なのに、今日は残念でした。オブラスツォーワも本調子ではなかったようです。二人で練習できた期間がおそらく短かったのか、あまり調和のとれていないペアでした。


第三部 テーマとヴァリエーション
音楽:ピョートル・チャイコフスキー 振り付け:ジョージ・バランシン 演出:フランシア・ラッセル 
衣装:ガリーナ・ソロビヨーワ 照明デザイン:ガリーナ・ルカセヴィチ
出演:アリーナ・ソーモワ、ウラジーミル・シクリャーロフ

 あらためてバランシンの振付の音楽性の高さに感激させられました。ダンサーたちのグループの動きを見ていると、オーケストラ譜が踊りになったようなそんな錯覚さえ起こさせます。けれども決して音楽がもつ内容の豊かさは失わず、天才的な振り付けです。ダンサーたちの今日の踊りかたにはあまり満足できませんでした。とくに気になったのは主役の二人の腕の動きです。クラシックの動きの決まりを完全に守ってこそ、様式美が強調される踊りなのに、二人の腕はかなり自由な線を描いていたので、作品全体の調和が崩されてしまいました。

 この日のガラ・コンサートはミスキャストではないかと思える瞬間が目立つプログラムでした。普段とは違う魅力を引き出そうという狙いがもしかしたらあったのかもしれません。ダンサーたちも意欲的に取り組んではいたようですが、なかなか成功した例はありませんでした。それとは対照的に、長年組んでいるペアの踊りの質の高さに感動する場面は多かったです。
作品選びは成功したといえるでしょう。「フーケ・アーズ?」でスタイリッシュにテンポ良く始まって、二部は「瀕死の白鳥」、「ドン・キホーテ」以外マリンスキーのレパートリーにはなかったり、ふだんはほとんど上演されない演目がならびました。三部は王道の「テーマとヴァリエーション」で締めくくりと、バランスのいい構成だったと思います。バランシン作品が多いことに気付きます。若い観客層が多いとはいえないマリインスキー劇場では、現代ものはバランシンまでがすんなり受け入れられる限度なのかもしれません。とはいっても、新しい作品を上演しようという試みはさかんに行われています。今回の「せむしの仔馬」はそのいい例です。古典も大事にしながら、これからもいい作品が次々に生まれていくことを一観客として切に願います。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

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