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3/15 せむしの仔馬 二幕八場 第9回マリインスキー国際バレエ・フェスティバル マリインスキー劇場
2009年3月15日
音楽:ロジオン・シチェドリン 脚本:マクシム・イサーエフ(ピョートル・エルショーフのおとぎ話を基に)
振り付け:アレクセイ・ラトマンスキー 美術:マクシム・イサーエフ 照明:ダミール・イスマギロフ
登場人物
ばかのイワン:レオニード・サラファーノフ
お姫さま:アリーナ・ソーモワ
せむしの仔馬:グリゴリー・ポポフ
皇帝:ロマン・スクリプキン
寝殿侍従官:イスロム・バイムラードフ
雌馬:エカテリーナ・コンダウーロワ
雄馬:ユーリー・スミカーロフ、セルゲイ・ポポフ
ダニーロ:ソスラン・クラーエフ
ガブリーロ:マクシム・ジュージン
老人:アンドレイ・ヤーコブレフ
ロシア人なら誰でも知っている物語の筋をほぼなぞりながら、明るいユーモアたっぷりの作品に仕上がりました。最初から最後まで文字通り息つく間もなく踊りの連続で、躍動感あふれる舞台であると共に、マリインスキー劇場のバレエのレベルの高さもうかがわせます。
イサーエフによる舞台装置はミニマリズムの傾向があり、中央だけ明るく照らされた舞台の上には装置らしいものはなく、時々王様の四角い玉座やベッドが運ばれてくるばかり。背景には太陽になったり月になったりする巨大な黄色の円が描かれています。衣装は、奇想天外なアイディアで観客の目を楽しませてくれます。イワンのお父さんとお兄さんたちはマレーヴィチの民衆の絵を思い出させる服に身をまとい、皇帝の真っ赤な衣装の胴の部分には救世主寺の塔。ジプシーと海底の住人の胸には巨大な人間の顔の絵が頭とあごが逆さになってプリントされています。はっきりした色づかいで、全体にポップな印象です。
ラトマンスキーは振付にあたって、お話を丁寧に踊りで表現することを念頭に置いたそうです。それぞれの登場人物がとても魅力的に描かれています。音楽から受ける印象も大事にしたようで、音楽と軽く会話している様な雰囲気です。ただあえて言うなら、ひとつひとつのエピソード、ひとりひとりの人物、ディテールに注意を向けすぎて、芯になって発展していくモチーフなどがなく、作品全体を通してのテーマが見えにくくなってしまったかもしれません。
3月14日と15日では別々のキャストだったのですが、作品から受ける印象もかなり違ったものになったようです。ダンサーによって役作りを完全に変えてありました。聞いたところによると、特に皇帝は、14日(アンドレイ・イヴァノフ)はわがままでとても嫌な感じの偏屈な皇帝でしたが、15日は無邪気で甘やかされた小さい子どものようで、お話の最後に亡くなってしまうのがかわいそうになりました。いろんな出演者を見比べるのも劇場芸術の醍醐味の一つですね。
それぞれの出演者と役について。
ばかのイワン:レオニード・サラファーノフ
底ぬけに明るいおばかなイワン。踊りの技術の高さは周知のごとく、舞台一周の難度の高い跳躍を軽々とこなし観客席を沸かせました。
お姫さま:アリーナ・ソーモワ
コケティッシュでかわいらしい。皇帝をからかって遊んでいるだけかと思いきや、本当に自分のほしいものはちゃんと分かっている模様。真珠の指輪が入っている宝箱に指もふれずにそっぽを向くところや、王冠を差し出されても「私が一番!」と言わんばかりに天を指さすところなど、非常にあっけらかんとしていて、財産にも権力にも惑わされない「人間」の価値を妙に納得させられました。
せむしの仔馬:グリゴリー・ポポフ
軽妙洒脱なジェスチャーとしなやかな動きで、まさに子馬が舞台に躍り出てきたという感じ。芸達者なダンサーの魅力が活かされています。
皇帝:ロマン・スクリプキン
上にも書いたとおり、思わずあやしたくなってしまうような皇帝。煮えたぎる熱湯に入るときもいたって静かで(のたうちまわる15日の皇帝とは対照的に)、寝入ったのかな?あぁ死んじゃったのか、かわいそう・・・とため息が出るほど。
寝殿侍従官:イスロム・バイムラードフ
すぐれた踊り手であるとともに、性格俳優でもある彼の特長が存分に発揮されています。意地悪でずるがしこくてちょっとおっちょこちょい。高笑いしすぎて一瞬腰が抜けるなどユーモラスで、絶対に退屈させない人物のうちの一人です。
雌馬:エカテリーナ・コンダウーロワ と 雄馬:ユーリー・スミカーロフ、セルゲイ・ポポフ
ジョン・トラボルタ出演の映画「サタデーナイト・フィーバー」をどことなく思い出させる衣装で、振り付けも非常にスタイリッシュな馬たちです。
フェスティバルの目玉である新作バレエ「せむしの仔馬」は、大変楽しめる作品になりました。特に若い世代の評判が良く、大きな成功でフェスティバルを開幕することができました。
サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記
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