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2008・6・6 「白鳥の湖」(全3幕)  ロシア・インペリアル・バレエ団公演(芸術監督:ゲジミナス・タランダ) inモスクワ・ノーヴァヤ・オペラ劇場

2008年6月6日

オデット/オディール…ヤロスラーヴァ・アラプターノワ(ペルミ劇場ソリスト)

王子…ナリマン・ベクジャーノフ

悪の天才…アレクサンドル・ヴォルコフ(ペルミ劇場ソリスト)


初めてこの劇団の公演を観ました。“演劇”とも言えるような演技の濃い劇団で、普段バレエの王道を行くボリショイ劇場を観なれている者としては新鮮でした。物語の最後がハッピー・エンドのバージョン。基本的に大筋は白鳥の湖の台本を辿っているのですが、所々個性的な演出があって中々ユニークで楽しめました。
  この劇団は総勢何名なのかわからないのですが、最多で1人3役をこなしているダンサーもいるくらいなので、そんなに大規模ではないのでしょう。ノーヴァヤ・オペラ劇場の舞台は奥行きも幅もあまりなく、そんなに広くないのだと思います。主役からコールドまで勢ぞろいするとかなり窮屈そうです。その分舞台装置は簡素にしてありました。少し遅れて行ったので詳細は不明ですが、この日は開演前に何か授賞式のようなものがあった模様です。

  幕が開いてまず驚いたのは、同じ衣装の2人がおどけながら出てきた事。そう、道化が2人いるのです。2人してじゃれあい始めました。踊る部分は2人で交互に踊ったり、同時に踊ったり…コントがある分、ちょっと端折られていました。かと思えば、王子の女友達と組んで踊りだしたりして、何とも不思議な道化達でした。ちょっと道化の踊りの見せ場が削られていて不満は残りますが、たまにはこういうのも良いかと。愛嬌があって可愛らしかったです。ちなみに道化の内の1人、アレクセイ・ゲラシーモフという人は国際コンクールで受賞したらしいです。(最近のペルミであった国際コンクール?) もう片方の道化はアレクサンドル・アリーキン。しかし、どちらがどっちなのかは分かりませんでした。

 オデットの登場場面はかなり目を惹くものがありました。オデット(オディール)役のアラプターノワが群を抜いて目立つのです。スタイルが良く、顔も美形で綺麗、踊りもどこか洗練された雰囲気。主役なのだから当然?…とも思いましたが、失礼ながらこの劇団にしては随分と綺麗でレベルの高い人だなあと感じました。
  幕間にプログラムを買って確認すると、ペルミ劇場のソリストでした。そして、最近のペルミ国際コンクールで2位だった人だそうです。納得。彼女の存在が、かなりこの舞台の雰囲気を引締めていたと思います。踊りもさすがに美しかったです。グラつかないし、軽やかです。挑発的だけど強すぎず上品なオディールの踊りが印象に残っています。

  悪の天才、ヴォルコフもペルミ劇場から客演に来ているソリストでした。確かに、オデットほどではないですが、他のダンサーと雰囲気が違うと感じられました。踊りのタイプが違うのがどことなく分かります。“悪”オーラはあまりしつこい感じではなく、割とアッサリ。メイクがビジュアル系バンドを連想させるような小奇麗な感じで、流麗な動きの妖しさと程よくマッチしていました。跳躍がいまいち(舞台が狭いせい?)のように思えましたが、全体的にキレのある踊りでした。


王子、ベクジャーノフ。この劇団のダンサーのようです。東洋系か中東系か、どちらかと言うとエキゾチックな容姿と、感情のこもった演技が個性的な人でした。踊りに関しては、ちょっとコメントに困る所です。踊り急ぎすぎてテンポが崩れる事があったり、跳躍の際の開脚が足を引きずる感じで適当になっていたりと、粗が目立つものの、彼なりに踊っているのが見て取れました。

 王子の婚約パーティーでは、花嫁が4人登場しました。加えてハンガリーの踊り3人、スペインの踊り3人、マズルカ6人、ナポリの踊り2人。ちょっと垢抜けない印象があるものの賑やかで華やかな場面でした。しかし道化があまりに茶々を入れすぎて、時折まとまりが悪く思えることもありました。せめてマズルカで道化も一緒に踊らないでほしかったです。こういう演出なのかと割切ってみれば、これはこれで楽しめると思いますが…

出演者が少なくそれぞれ容姿に特徴のある人も多いこともあって、割とすぐに色んな人を覚えることができるのですが、特に印象に残ったのがユーリヤ・ガローヴィナ。王子の友達を踊っていたかと思ったら、4人の白鳥に混じっており、続いて花嫁の1人。大忙しですが、手を抜くことなく丁寧に踊っていたのが良かったです。踊りが巧いというよりは、愛嬌があるタイプだと思います。


 舞台は全体的に結構明るく、案の定王子はオデットを救い出して、めでたし、めでたし、と幕を閉じました。あまり観なれないタイプの白鳥の湖でしたが、たまにはこういった趣向も楽しめて良いです。演技色の強い、個性的な劇団でした。ただし、やっぱり舞台を引締める要素は必要だと思うので、できれば主役級は踊れる人が踊って欲しいですね。そういう意味では、今回は中々当たりでした。 

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