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2008・5・11 「眠れる森の美女」  モスクワ・ボリショイ劇場 inクレムリン大会宮殿

2008年5月11日

オーロラ・・・エカテリーナ・クリサーノワ
デジーレ王子・・・ルスラン・スクワルツォフ (初)
リラの精・・・マリーヤ・アレクサンドロワ

 客席の照明が落ち、開幕直前にアナウンスが入った。「本日はオーロラ姫のナヂェージュダ・グラチョーワに代わりまして、エカテリーナ・クリサーノワが出演します。」ザワザワと会場がざわめく。私もその一人だった。グラチョーワ目当てで行った公演だったので、正直に言うとこの瞬間に一気に気持ちがしぼんだものです。しかしそんなやる気のない気持ちもあっという間にどこへ行ったものか、クリサーノワの予想以上の好演にハッと目を覚まされます。幕が開けてすぐに、やっぱり観に来て良かったと思い直しました。

 オーロラ姫のクリサーノワ。この日は、まず何よりも全幕通してキレが良かったです。出だしから絶好調で、気合を感じられました。ふわふわとした可憐さはいつも通りなのですが、心持ち気合の入り方がキレに出ているようで、ぴしっとポーズが決まるのです。元気はつらつとした雰囲気も踊りも、この役にぴったりでした。
 特筆すべき場面は一幕のローズ・アダージョでしょう。踊りのキレが最高潮でした。見所と言われる4人の王子とのアチチュードのバランスは、微動だにしないというほどではないですが、揺らぐことなくバランスを保ち、ほどよくリラックスした姿で始終笑顔だったのが印象に残っています。跳躍もいつもより足が上がり、伸びやかさが気持ち良かったです。
 結婚式のパ・ドゥ・ドゥ。こちらも良かったです。少女の中にも少し大人っぽさが漂っていました。最後まで気を抜くことなく踊っていて、途中僅かな乱れこそあったものの、全体を通して文句なしに良かったと思います。彼女の成長ぶりがうかがえました。

 スクワルツォフはデジレ王子初でした。立ち姿も優しげで、優雅といえばまあ優雅な感じでもありました。クリサーノワと並ぶとちょっとだけお兄さん風で、バランスも良かったです。彼がこのような王子の役を踊ると、頼りある感じではないのですが、前に出すぎずすっと手を差し伸べるようなさりげない優しさがあり、穏やかさを醸し出しています。王子にも色々タイプがあるものです。
 肝心の踊りの方は、残念ながら特にここが良かったというのがないのですが、まずまずといった所でしょうか。良かったとはっきり言えないけれど、反対に良くなかったとも言えません。クリサーノワの調子が良かったのもあって、あまり目立たなかったのかなとも思います。リフトやサポートは良かったと思いますが、それでもやっぱり踊りで何かしら印象が欲しいところです。

 アレクサンドロワはすでに決まり文句ともなりつつありのですが、いつでも確かな踊りを見せてくれます。ムラがあまり見られないのです。時々荒っぽくなっていることもありますが、大抵は自信が溢れた凛とした踊りで、見ている側を安心させるような効果があります。この日もしっかりと踊る姿を見せてくれました。
 そういった踊りと彼女の個性は、このリラの精という役どころも似合っていると思います。他の精たちを引きつれて出てくる場面など、「これならついて行きたい」と思わせる存在感と率先力、華やかさがあります。踊りに関してはただ一言、全幕通して平均的に良かったと言えますが、敢えて一つ良かった点をと言うならば跳躍でしょうか。いつもよりも着地が軽やかだったように思われました。場面一つ一つでしっかりと印象を残せるのはさすがです。

 青い鳥(アルチョム・アフチャレンコ)、フロリナ姫(エレーナ・アンドリエンコ)。お姉さんと若いツバメといった雰囲気の2人でした。まあ、アンドリエンコは結構なベテランで、オヴィチャレンコはまったく若手なので無理もないでしょう。しかし2人とも線が細く華奢なので、体格のバランスは良いかなと思います。
 オヴィチャレンコは青い鳥デビューでした。まだまだ細すぎてリフトとなると少し危なっかしさがありますが、バリエーションでの軽やかさはなかなか良かったです。アンドリエンコは落ち着き具合がちょっとフロリナ姫のイメージではなかったですが、そこはこの際目を瞑るとして、なめらかで流れるような踊りは綺麗でした。

  魔女カラボスはゲンナージィ・ヤーニンでした。表情の変化が素晴らしいです。目を見開いて威嚇してみたり、ふっと目を細めたかと思えば仰け反って大口開けて高笑いしてみたり、意地悪く流し目で睨みつけてみたり…と、あっぱれとしか言いようがありません。動きも同様、痙攣、地を這うようなするするとした歩き方、急に俊敏になってマントを振り回す様など、迫力があります。あんな魔女に迫られたら卒倒してしまいそうです。役者ですね。余談ですが、カラボスの家来のネズミがリアルで気味が悪いです。
  他に印象に残っているのは、ダイヤモンドの精のアナスタシヤ・ガリャーチェワ。何となくいつも印象に残る彼女です。どう表現したらいいのか悩む所ですが、手の動きが何かをつかむ様な感じで踊りは柔らかく、特徴があってすぐに彼女だと分かります。他の宝石の精と比べると、やっぱりオーラが違うなと思いました。

 グラチョーワのオーロラ姫はやっぱり見たかったですが、ここは素晴らしい踊りを披露してくれたクリサーノワに拍手を送りたいと思います。良い舞台でした。



モスクワからの劇場だより

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