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マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル 『ガラ・コンサート』 2010年4月25日

2010年4月25日

 アイスランドの火山噴火が原因で、ペテルブルグでは様々なコンサートが中止・延期されました。マリインスキーでもいくつかのキャスト変更や、一部観客席が空く(おそらく外国からの観客)ということがありましたが、おおむね盛況のうちに最後の回を迎えることができました。公式ブックレットに載っておらずあとから出演が決まったのではないかと思われるダンサーにはハンブルグ・バレエからエレーヌ・ブシェ、ベジャール・バレエからマルティン・ヤコブセンらがいました。二人とも公演にさらなる花を添えてくれました。

第一部「Immortal beloved 永遠の恋人」
作曲:フィリップ・グラス 振付:エドワード・リャン
出演:I・ゼレンスキー、A・ジャロワ、N・エルショワ、E・ルィトキナ 他男性6人
 第一部はノヴォシビルスク国立オペラ・バレエ劇場の客演でした。リャンの特別な世界観が光る作品です。踊りの技術としてはほぼ純正なクラシック・バレエですが、意味深長な手のラインや間の取り方など独特で、神秘的な雰囲気を醸し出しています。作品の構造としても、ソリストが自分の技を披露するためのシーンがあったりと、プティパらの作品構造をなんとなく思い出させるところもありました。
 印象に残っている場面は、男性陣が一列に並んでのち先頭にしたがって次々に流れるような跳躍を繰り出すところです。つながっていく無窮の動きはたたみかけるような音楽と相まって愛の永遠性を象徴するかのようでした。ソロ・パートでゼレンスキーが空中を切るようなジェッテ(跳躍)で観客をわかせていました。

第二部「ルビー」
作曲:I・ストラヴィンスキー 振付:J・バランシン
出演:E・ブシェ(ハンブルグ・バレエ)、A・フェジェーエフ、E・コンダウーロワ
 ケガでなかなか本格復帰がならなかったファジェーエフですが、元気な姿を見せてくれました。去年の復帰ロミオのときは体の肉が落ちて筋が見えるようでしたが、今回は少ししっかり体型になり、動きのラインやキレが多少あまい瞬間も。それでもコミカルな演技で明るく舞台を盛り上げました。
 ブシェはマリインスキーのコールドの中にいると小ささが目立ちますね。彼女は胴が本当に短いのでそのせいもあるかもしれません。おもいきりよくコケティッシュ、しかも美しく艶っぽく魅せました。ただ二人の間のコンタクトがいまいちだったのが残念でした。
 二人とも素晴らしかったのですが、実際のところ今夜の主役はコンダウーロワでした。整った顔立ちに均整のとれた長身が目立つ彼女は、宝石の精というより氷の女王のごとく君臨し(本当にそんな感じ)作品全体を引き締めていました。

第三部 小品集
「カルメン組曲」より一場面
音楽:J・ビゼー/R・シチェドリン 振付:A・アロンソ 出演:I・ニオラーゼ、I・クズネツォフ
二人ともまだ役作り途上という感がぬぐえませんでした。

「Simple things」より一場面
音楽:A・ピャルト 振付:E・ファスキ 出演:E・コンダウーロワ
 公演前、作品についてのインタビューで「ある歴史上の有名な女性が主人公で、一つ一つの動きには具体的な意味がある。でも誰だかは私の口からは言わない」と述べていたファスキ。初演時にはさっぱり誰だかわからなかったのですが、ガラでたぶんわかったと思います。「マリー・アントワネット」じゃないかと!ただたんに背景で、ユリの紋章の旗が燃えていく映像が流れたからなんですが…。脈絡のないように見える振付もコンダウーロワの熱演で観客席に感動をよびました。

「グラン・パ・クラシック」
音楽:D・オーベール 振付:V・グゾフスキー 出演:O・ノヴィコワ、L・サラファーノフ
絶好調のサラファーノフ。つややかさと迫力を増して復帰したノヴィコワ。見てて退屈させないカップルです。

バレエ「失われた物語」から「高まり(精神的昂揚)」
音楽:S・プロコフィエフ (オーケストレーション)M・ベルクリ 振付:K・ブレンツトロプ 
出演:A・コジョカル(英国ロイヤル・バレエ)、M・ヤコブセン(ベジャール・バレエ団)
何かの壁に妨げられながらも、お互いに対する愛を確認する二人。とても息の合ったデュエッットで、技を感じさせず秀逸でした。

「プルースト~失われたときを求めて」
音楽:G・フォーレ 振付:R・プティ 出演:D・ホールバーグ(アメリカン・バレエ・シアター)、D・マトヴィエンコ
プティのこの作品を私はまだ観たことがないので嘘を書くかもしれませんが、なんとなくホールバーグの演じる威圧的なほどに存在感のある父性的男性像と、マトヴィエンコのさまよえる魂を持つ子どものような姿が興味深いデュエットでした。

「タンゴ」
音楽:A・ピアソラ 振付:N・アンドロソフ
ロパートキナの完全にコンサート向きの軽妙洒脱な作品です。黒いパンツスーツの上着と黒い帽子をもてあそびながらの踊りは彼女の細長いシルエットが映えます。

「チャイコフスキー・パ・ドゥ・ドゥ」
音楽:P・チャイコフスキー 振付:J・バランシン 出演:V・テリョーシキナ、V・シクリャーロフ
 ここぞというときのテリョーシキナ。ヴァリエーションで気持ちよくはじけてくれました。堂々としたのが彼女の看板でしたが、かわいらしさも加わってきました。シクリャーロフはちょっと重たそうな…。あごのラインが鋭角じゃなくなり、心なしか跳躍も重たげ。うーん。

フェスティバル全体を振り返ると、今年はたくさんの初演が行われ、マリインスキー劇場の「更新」を印象付ける11日間となりました。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

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