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マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル 『NEW GENERATION』―スメカーロフ、ファスキ、リャン― 2010年4月23日

2010年4月23日

三つの新作発表です。どの作品も意欲的でおもしろい夕べになりました。

「工場“ボレロ”」
音楽:M・ラヴェル 振付:Y・スメカーロフ
出演:
魂―V・テリョーシキナ
大罪 暴食―A・コルサコフ、色欲―K・ヨアニシャン、強欲―A・セルゲーエフ、
憤怒―K・ズヴェーレフ、嫉妬―M・ジュージン、怠惰―A・ピモノフ、傲慢―D・コルスンツェフ
 幕が空くと舞台正面に白い高い階段が、その先には黒・白・赤と色を変える巨大な風車のような円が見えます。階段の高みから下りてくるテリョーシキナ。白い短いチュニックが古代ローマの衣服を連想させます。その後どこからともなく突然現れる男性ダンサーたち。実はそれまでリノリウム色の覆いの下に横たわっていたところを、瞬時に覆いをはぎ取られ姿をみせるのです。古代戦士服のような形の衣装は、アースカラーを基調に紺色のペインティングが入っている布でできていて、ダンサーの体や顔にも直接彩色が施されています。髪型も人によっては鶏のように逆立ててあったりしてなかなか個性的です。七つの大罪を表現しているはずのダンサーたちですが、振りの中にはそれらしき特徴は少なく、さらには仲間の振りをすぐに繰り返したりするので結局誰が何、ということは分かりづらくなっています。男性ダンサーと順番に組んで踊るテリョーシキナの白い衣装がだんだんと汚れていき、背中には二つの赤いしみが現れます。もぎとられた羽の痕でしょう。汚れきった魂は悪の力に耐えきれず、階段の上から身を投げます。
 重厚感のある踊りのスタイル、アクロバティックなリフトはロシアの伝統が感じられ、もしかしたらヨーロッパの真似だけではない現代のロシアの振付家登場かなと一瞬思いましたが、アイディアを十分には踊りで表現できていなかったところや、音楽の理解などまだ課題はのこっているようです。

「Simple things」
音楽:A・ピャルト 振付:E・ファスキ
出演:
E・コンダウーロワ、M・ジュージン、A・ピモノフ、A・チモフェーエフ、
F・ムラショフ、I・ペトロフ、R・ムーシン、V・トカチェンコ
 振付家の言うとおり、「筋はない」ので話は書けませんが、背景に映される映像がいろいろと変わって、視覚的におもしろかったです。最初は無数のユリの紋章(フルール・ド・リス)の映像。頭からすっぽりと黒っぽい覆いをかぶった8人のダンサーたちは、奥に向かって何か高い所にあるものをつかもうとするかのように飛び跳ねています。青空を背にした次のシーンはコンダウーロワとジュージンの静謐なデュエット。その後うってかわって黒いバックにに赤い糸、もしくは染色体のようなひも状のものが散っている幕の前で男性陣の不穏な雰囲気の踊りが繰り広げられます。男性たちの着ている、くすんだ金色のスウェットスーツのような衣装が薄暗闇の中で激しくうごめきます。続いて灰色の薄いチュニックに着替えたコンダウーロワのソロ。背景には白い紙が中心から燃えていくところが映されています。広いメロディーながら、細かい動きが連続で積み重ねられ、大きなドラマの波は感じられませんが、ときおりふっと静止した瞬間の意味深長で詩的なポーズが印象的でした。コンダウーロワの美しいシルエットも作品の重要な要素です。最後はまたユリの紋章が映され、黒いかぶり物に頭を隠した8人が再び登場します。一人ずつ舞台から去っていくところで最後のコンダウーロワが突然観客席を振り返ります。これがフィナーレです。

「天使の飛翔」
音楽:M・マレ、J・タヴナー 振付:E・リャン
出演:
L・サラファーノフ、O・ノヴィコワ、
M・フロロワ、A・ミヘイキナ、O・グロモワ、K・サーフィン、I・レバイ、F・スチョーピン、O・デムチェンコ
 舞台中央にうずくまるサラファーノフ。その背中から巨大な羽のように天井までつづく深紅のマントがのび、観客の目を奪います。そのマントが引き上げられると、そこには薄い色の中世を思わせる衣装に身を包んだダンサーたちが。入れ替わり立ち替わり、時にペアで、時にグループで舞台に現れます。その間、全身赤色の衣装のサラファーノフは常に歩き回り、気がつくと他のダンサーの動きに反応したりと受動的な存在の仕方でした。サラファーノフ演じる役の視点を反映するかのように、群舞の中でノヴィコワの役がだんだんと目立つようになってきます。
 状況が変わるのは後半、彼のソロとそれに続くノヴィコワとのデュエットです。ソロではこれでもかとばかりに超絶技巧を見せつけました。永遠に続くかと思われる回転、空中さえも支配できると言わんばかりの跳躍。観客席から自然と大きな拍手がわきました。続いて恋人たちの抒情的なデュエット。上に着ていたものを脱いだ二人は、最初はお互いの様子をさぐるように、心のうちに何かの葛藤を抱えながらも求めあい、やがて調和的な雰囲気のうちに結末を迎えます。
 クラシック・バレエの技法を利用しながらも、そこはかとなく瞑想的雰囲気を醸し出す独特の間の取り方、音楽の使い方、ポーズの見せ方がリャンの持ち味なのかなと思いました。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

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