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マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル 『ジゼル』 2010年4月20日

2010年4月20日

作曲家:A・アダン 振付:J・コラッリ、J・ペロー、M・プティパ
出演者:
ジゼル-N・オシポワ
アルブレヒト-L・サラファーノフ
ヒラリオン-I・クズネツォフ
ミルタ-E・コンダウーロワ

本当なら三カ月に一回が限度という大役に、この一週間のうちで三回挑んだというオシポワ。さすがにお疲れを隠せず、本人も満足のいかないできだったそうです。

 一幕のオシポワは完全に病弱な女の子。跳躍も控えめですが終始うかない表情で、特にヴァリエーションの前、大きな覚悟をするかのように息をつめたところは「あぁこれが彼女の最後の踊りになるんだ」と思わせられたほどでした。たぶん昔は健康でアルブレヒトとも楽しくやっていたのだろうけど、今ではもう病が体を侵食して、彼を愛するというより生にすがるといった風情でした。
 サラファーノフは控えめに踊る相手役をしり目に、恋に夢中の若者として一幕から自分の跳躍力を存分に発揮していました。リアリスティックにやればそういうことになるのでしょうけど、バレエ劇場の決まりごとでは一幕はむしろ二人の心の調和を表わすのが主で、踊りの上での調和はもちろんのこと、ジゼルも病人のふりばかりしてなくていいはずなのです。
 それでもここまでは「きっとオシポワはリアリスティックな一幕とファンタスティックな二幕でコントラストをつけて、次はこの世のものでないような素晴らしい踊りを見せてくれるにちがいない」と思って待ち構えていました。もちろん彼女の跳躍は非常に高さがあって滞空時間も長く、「ファンタスティック」だったのですが、演技や踊りのスタイルの面では期待は裏切られ、終幕にむけてあからさまに両腕に力はなく肩は落ち、アルブレヒトのために頑張って踊って自分も疲れてしまったという感じでした。二幕のジゼルはもう精霊ですから当然「疲れる」というのはありえないわけで、やはり「週に三回ジゼル」がたたったようでした。それでもサラファーノフと交差しながら同時にジャンプするところでは完全に同じ高さで跳んでみせ、二人の美しいシルエットを印象付けました。
 
 一幕のアルブレヒトは、愛を誓うジェスチャーの最中にわきでうろたえるジゼルの様子を横目でうかがったり、ヒラリオンの登場にやっかいなことになったとうとましいような表情を浮かべたり、遊び人の感じがとても強かったです。ジゼルの死もすぐには哀しみを呼ばす、むしろ予期しなかった状況に憤怒の体でした。二幕はサラファーノフの超人的な跳躍で観客はとりこになり、アルブレヒトの物語はどこかへ消えていきました。
 
 クズネツォフは、ちょっと粗野で、愛を謳いあげたりはできないけれど、彼なりにジゼルを大事に思っている狩人を好演。コンダウーロワは地表をすべるようなパ・ド・ブレが見事でした。
 フェスティバルだとどうもペザントのパ・ドゥ・ドゥは省かれるようですね。いつだったかのセミオノワのジゼルの時もなかったし、今回もありませんでした。コールド・バレエは「さすがマリインスキーのコールドの美しさは他にはなかなかない」と感動しそうになったそばからちょんぼをやってくれました。ななめのラインに立って、一人づつ次々に振り返っていくところで最初の三人が間違えて早く始めてしまって、びっくりして対処しかねている四人目を三人目が指でつっつくといったハプニングもありました。
 いろんな意味で内容の濃いおもしろい公演でした。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

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